昭和十一年(1936年)五月十八日。 尾久の待合旅館「満佐喜」で男性の変死体が発見される。 男の名は石田吉蔵。 死因は絞殺による縊死であったが、 遺体からは男性器が切断されており、 左太腿とシーツに「定吉二人キリ」と血文字が残されていた。 石田とともに投宿していた女がただちに手配され、 その三日後に逮捕される。 暗い世相を吹き飛ばすかのような怪事件の出来に、 巷は沸きに沸いた。 これが世に言う「阿部定事件」である。 事件発生から三日間の彷徨ののち逮捕された定は、すぐさま捜査本部の置かれた尾久署に移送され、取り調べがおこなわれた。定と刑事たちが全員笑顔でいる非常に有名な写真は、逮捕当日の夜、警視庁婦人独房への移送の際に撮影されたものである。猟奇の果てにあの朗らかな笑顔にたどり着くことができたのはなぜか。取調室における定と刑事たちとの攻防を描く。二本立て公演『毒婦二景』の一作。
[本作の注意事項]
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