あの流行り病がほんの少し落ち着き始めた頃の話だ。
42歳の誕生日、私は東北新幹線に乗って仙台に向かった。姉が一緒にみたいと言った絵を見に。
言い出しっぺの姉はこの旅行に参加していない。「一生のお願いだから一緒に絵を見て」と言っていたのに。ひどい話だ。
ひとり乗り込んだ新幹線。「なっちゃん」という3歳ぐらいの女の子が車内販売のアイスクリームを食べたいと駄々をこねている場面に私は出くわす。うるさいな、関わりになりたくないなと思いながら、私はなっちゃんとなっちゃんのお姉ちゃんの関係に、自分と姉を重ねて子供のころを思い出してみる。
しかしだ。子供の頃はいざ知らず、大人になった今、幸せな結婚をした姉に比べて独身で非正規雇用の果てに雇止めになった不幸せな私。明るくて自由な姉が憎たらしいとずっと思っていた私。
なにより。姉がこの旅に参加しなかった理由も、私は受け入れられずにいる。
新幹線を降りる時、なっちゃんのお姉ちゃんに垣間見た切なさに私はお姉ちゃんに思わず声をかけてしまう。
やがて私は姉が私に見せたいと言っていた絵の前に立った。
松本竣介という画家が描いた「画家の像」。
その絵を見てもなにも感じなかったはずの私だったのだが――