2021年3月11日。あの日から10年が過ぎた。 男は愛する妻娘の行方がわからないまま東京の知人に厄介になっていた。当時テレビ画面に映し出された被災地。名ばかりの復興を掲げた2020五輪。生きることにすら疑問を感じ続け、それでも笑顔を絶やさない男の心中は穏やかではなかった。男は何から逃げ続けていたのか。そして彼には目を背け続け、忘れていた事実があった。雀組ホエールズが正面から向き合い、笑いと涙で昇華させたいという想いで作りました。 (主宰より) 東日本大震災は一過性のものではない。それでも当事者以外は心のどこかで「他人事」「過去」にしたいと思っているように思います。復興五輪を掲げたはずの東京オリンピックが、コロナに打ち勝つための五輪になっていたこと、そしてそのことにあまり疑問を抱かなかった国民。僕は当事者ではありません。ただ震災後の夏に石巻市役所の職員さんに言われた言葉がずっと忘れられません。【とにかくこの景色(惨状)を実際に見に来て欲しい】・・・泥に埋もれた衣類やゲームなどの【日常生活の跡形】たち。僕たちは被災された当事者の皆さんに押し付けて、どこかで他人事にして忘れようとしているのかもしれない。それがいいか悪いかも分かりません。善悪は人それぞれだと思いますし、人間の持てる荷物には限りがあります。事象にではなく、人間に寄り添うことで、努めて楽しい作品にしたいと思っています。僕の心中を皆様に吐露することが、誰かの一助になればと筆を取りました。