本作は短編三本で構成されるオムニバス作品。アルコール依存症当事者を描く『わらってゆるして。』。家族に焦点をあてた『やがて窓辺にあかねさす』。ケースワーカーが登場する『SALT』。三つのエピソードを通じ、依存症から立ち直ろうとする人と、それを支える人たちの姿を見つめる。
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ふと、街に目を向ける。あくせくと行き交う人々は何処へ向かうのだろう。色々な人々が、様々な理由を抱え、街を行き交っている。そんな街の「背景」にも目を凝らしてみる。新発売のお酒を宣伝する広告、コンビニの冷蔵庫、居酒屋の赤提灯、酒屋の前の自販機…。街を行き交う人々の背景に、お酒への誘惑の糸はところせましと張り巡らされている。そんな街で私達は生活をする。歩き、躓き、絡めとられ、ときに動けなくなってしまったりもする。それでも、人は生活をする。今作は、人々が抱える「生きづらさ」に取り組む医療・福祉等の専門家だけでなく当事者や一般市民からなるNPO法人こころネットKANSAIとDIVEが連携し、三人の劇作家がアルコール依存症に関して現場で取材を重ねて書かれた三本のオムニバス公演です。それぞれの風景の中で生活をする人々の生き様が、この作品に触れた人達にとって、街に垂れた一縷(いちる)の望みに繋がりますように。
総合演出・橋本匡市(万博設計)
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『やがて窓辺にあかねさす』
作・杉山 晴佳(あうん堂) 演出・中川真一(遊劇舞台二月病)
ある日の家族会終了後。初めて皆の前で語った体験談がうまく運ばなかった男性の気持ちを家族会を取り仕切る女性が聞いている。更に忘れ物を取りに戻ってきた参加者も加わり、酒に囲まれた日常の中で病に向き合う家族のもどかしさにうずもれつつも、この病と前向きに立ち向かう日差しが雨上がりの部屋の窓辺に差し込んでくる。
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『SALT』
作・高橋 恵(虚空旅団) 演出・橋本匡市(万博設計)
夕刻、入口の大きなガラス戸が割られ、補修のため段ボールをつなぎ合わせるケースワーカー。ガラス戸を割ってケガをした患者を病院へ運んだりと同僚たちも落ち着かない。そこへ患者の母親だという女が訪ねてきた。聞けば患者は隠れてスリップ(再飲酒)し、再び病院に運ばれたという。落胆した母親をなんとか励ますケースワーカー。再び作業を始めると段ボールに紙片が挟まっているのを見つける。
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『わらってゆるして。』
作・横田修(タテヨコ企画) 演出・早坂彩(トレモロ)
断酒会の先輩を迎えに中年の男と女が老人ホームへと向かう。断酒表彰を控えた二人は晴れ姿を見てもらいたかったのだ。しかし一向に部屋から出てこない先輩には、昨夜の外出先においてスリップ(再飲酒)の疑いが…ホームの職員や若い精神保健福祉士と共に先輩を待つ間、彼らは酒と共にあった人生を振り返る。