春の海。暖かな島。地図に無い町「はなよめのまち」。
大きすぎる神社の隣には製紙工場がある。
煙突から放たれる白い湯気は海岸からでも見える。
誰かの庭に少女たちが集まり、この春一番の冒険を企てる。
「下弦の月夜。『はなよめ』に会いに行こう。」
土手を横道に逸れ、見返り柳を目印に五十間坂を下りると、
そこに遊郭はあった。
茶屋が軒を連ねた先には小さな遊園地や劇場さえある。
夜が近づく頃、女たちは生命活動を始める。街角のどこかで誰かが歌を唄う。
その声を合図に街の灯が燈ると、夕映えの蒼い空の下、
破裂しそうな活気が茶屋の裏路地にまで満ちていく。
この町の特産品こそ『はなよめ』。
「アルカの祭」と呼ばれる祝祭は唐突に行われる。
祭りの日、誰かが『はなよめ』を連れて行く。
この町を出て行く。二度と戻ることはない。
その日のために『はなよめ』は育てられる。作られる。その日を待つ。
少女たちは『はなよめ』に憧れる。死んでしまいそうなほど胸を焦がして憧れる。
その美しさに憧れる。白い手の可憐さに憧れる。誰をも見ない冷たい目に、畏れる。
わたしも『はなよめ』になりたいと願う。
これは、わたしの物語。
わたしが町で暮らした記憶。
最後の日は、幻想のようでした。
わたしたちが逃げる田んぼのあぜ道は、水が張られてキラキラ。
裸足がどろ水を蹴り上げました。
乱視の視界が滲んだ向こうに捉えたものは、
誰もいない道に置かれたグランドピアノ。
ねえ。
わたしが弾かなくても勝手に鳴るから。
おもいだしてね。
わたしを。
うたうあなたのこえは。
だいすき。
さよなら、
アルカ。
キコ旗揚げ作品「はなよめのまち」をベースに、
「幻想」のテーマのもとまったくの新作へとリ・ボーン!
会話劇のスリルと音楽生演奏のギグ!
総勢21名のキャストによる幸福のクラップアンドステップ!
先の読めないキレキレのストーリーテリング!
ふりそそぎ、結びつき、破裂する「ことば」のマジック!
そして立ち上るのは美しい遊郭世界。可愛い残酷世界。懐かしい生命世界。
現実の体のままご来場ください。浮世に宝物を探す冒険をしましょう。
さあ、幻想はどこにある?
キコ/qui-co.が贈るファンタジー音楽劇。
「鉄とリボン」
キャスト
佐藤健士(キコ/qui-co.)/東澤有香(キコ/qui-co.)/藤原薫(十七戦地)/川上憲心(劇団風情)/菅野貴夫/柘植裕士/林愛子/家田三成/相馬有紀実(CES)/北川義彦(十七戦地)/岩崎あゆみ(劇団フェリーちゃん)/田中祐理子/伊井ひとみ/熊野ふみ/金澤卓哉/佐藤鈴奈/吉田能(あやめ十八番)/小野雄大(うたたね)/西村亮哉(LOW HIGH WHO?)/エリカ(BLASH)/ハマカワフミエ
スタッフ
脚本・演出:小栗剛(キコ/qui-co.)/演出助手チーフ:渡邉祐太/演出助手:中神芽依・田野友里恵・金子晴菜・依田玲奈・安田明由/舞台監督:吉倉優喜/照明:小林愛子(Fantasista?ish.)/音響:杉山碧(La Sens)/舞台美術:平山正太郎(Centreline Associates)/美術助手:今井祥子/衣装:松島千晃/スチール:阿萬芽衣/音楽監督:吉田能(あやめ十八番)/オープニング曲:「うつくしいもの」by小野雄大(うたたね)/メインテーマ曲:「さよならアルカ」byエリカ(BLASH)/映像:田巻正典/カレー:茄子おやじ(下北沢)/制作:サリバン・レコード/協力:フォセット・コンシェルジュ・CES・MOTION GARALLEY・阿佐ヶ谷アートストリート・武蔵野市・杉並区・朝日文化財団・ポルトガル大使館