舞台となるのは千駄木・団子坂上の森鴎外の住居「観潮楼(かんちょうろう)」。この家は、歌会を催し、文学談義に花を咲かせるサロンである一方、帝国軍医としての鴎外に近しい軍人や官僚が出入りするなど、文学者にして官僚という、鴎外の「二つの頭脳」を象徴するような場でした。
家庭生活においても、鴎外は「二つの頭脳」の使い分けを余儀なくされていました。二度目の妻・しげと、鴎外の母・峰(みね)は、森家の主導権をめぐり、壮絶なバトルを繰り広げていたのです。鷗外は、しげに対しては「良い夫」、峰に対しては「良い息子」としてふるまうという、危ういバランスを生きていたのでした。
ところが、社会主義者の幸徳秋水らが明治天皇の暗殺を企てたとする「大逆事件」が報じられると、文学者と官僚の二つの立場を行き来する鴎外の危うさがピーク に達します。
本作品は、1910年から1911年にかけての4か月間、鴎外と彼を囲む人々を描き、謎多きその内面に新たな光を当てようとするものです。
初演の舞台でハヤカワ「悲劇喜劇」賞(二兎社)と芸術選奨文部科学大臣賞(永井愛)を、再演の舞台(本作品)で紀伊國屋演劇賞個人賞・読売演劇大賞優秀男優賞(いずれも松尾貴史)を受賞した、二兎社近年の代表作。
キャスト
松尾貴史/瀬戸さおり/味方良介/渕野右登/木下愛華/池田成志/木野花
スタッフ
作・演出:永井愛/美術:大田創/照明:中川隆一/音響:市来邦比古/衣裳:竹原典子/ヘアメイク:清水美穂/舞台監督:福本伸生・下柳田龍太郎