第5回(1998年)大賞:蟷螂襲
滝の茶屋のおじちゃん
作品解説
阪神大震災の3年後、舞子の小さな砂浜が舞台。山陽電鉄の運転士だった滝の茶屋のおじちゃんの一周忌に集まった、娘のユミや彼女の従兄弟達、そして弟のノブの恋人の珠子。ノブは5年前に生き方を見失い、失踪したままだ。子供の頃の思い出話、震災の日のこと、震災後の一番電車をおじちゃんが運転した日の姿。彼らの思い出話から浮かび上がる、神戸という街と人との絆と、生活史。実は砂の下にはノブが隠れており、珠子の手を握りながら、皆の話をじっと聞いていた。震災時神戸にいなかった負い目から、帰りづらくなっていたのだ。砂の中から姿を現したノブは、彼なりの苦悩を話す。阪神大震災を相対化し、叙情的な言葉で綴った鎮魂の劇である。(九鬼葉子)