第2回(1995年)大賞:鈴江俊郎
ともだちが来た
作品解説
登場人物は「私」と「友」の二人。季節は夏。「私」が這いつくばって畳のほこりを見ている。蟻が来る。蟻がほこりを食べるか食べないか、と「私」はつぶやく。「友」が来る。自転車に乗って六百キロあまりをやってきた。一週間ぶりの再会だ。「私」は麦茶をすすめるが「友」は飲まない。高校で同じ部活だった剣道の試合を二人は素手で真似てみる。少しの時間がたつ。「私」は剣道部の部室で一年生の女性とsexした様子を一人芝居しているのか、あるいは思い出しているのか一人語りに熱中している。それを「友」が見ていた。俺の頬とその女性の頬とどちらが色っぽいか「友」は聞く。ほのかに同性愛的空気が流れる。「友」は死者だった。一週間前が葬式だったのだ。麦茶を飲み、「友」は去っていく。悼みと孤独だけが残る。(岡野宏文)