第19回(2012年)大賞:稲田真理
留鳥の根
作品解説
養殖業が盛んな海辺の街に暮らす人々の日常を、「他者に対する”愛“とは何か」という問いと共に描く本作。タイトルにある留鳥は渡り(季節による移動)をせず、一つの場所に留まる鳥の事を指す。
登場人物は5人。選挙運動には熱心だが実は偽善的な町会議員。議員の愛人で心を病む女。家業の養殖業がうまくいかない夫婦。そして町の為を思いながらも行動できず、自己嫌悪に陥っている巡査。関係性は希薄な彼らだが皆、正体のない不安を抱え、人の為に何かする事で自らを確認しようとしていた。そんななか選挙運動中の議員の行動が様々な波紋を呼び、議員は遂に自殺してしまう…。どこにも逃れられない閉塞感ある現代の状況が、人間の業と共に描かれる。(安藤善隆)