第10回(2003年)大賞:山口茜
他人(初期化する場合)
作品解説
舞台はバナナ工場だが、いつしかそこが認知症患者の老人施設にも見えてくる。登場人物は、バナナのCMで下着姿にさせられる女性、昼間は介護士で、夕方から桃レンジャーになる女性、恋することが嫌いだという、何故か会話のできる犬など。すべては認知症患者の妄想や追想にも見えるが、そこには収まりきらないスケール感のある大作。エロスにまつわる断片的な場面が綴られ、女性性を商品化する男性の姿がシニカルに描かれた。患者の老女が、男性患者の部屋に忍び込み、体中を噛むというエピソードには、愛する相手を噛む瞬間の至福が描かれ、ぬるりとした実感が漂う。一方で乾いたセックス観も共存する、独創的な作品。(九鬼葉子)