第9回(2002年)佳作:芳﨑洋子
コンコン とんとん ポロンぽろん
作品解説
不登校のフリースクールの出身者たちが、6年ぶりに小学校の体育館に集まる。「トントントン。何の音?」という遊び歌は、なぜ泥棒や火事や地震なら「あー良かった」で、おばけなら「キャー」なのか。そんな他愛ない会話から、それぞれの思い出や近況が語られてゆく。そこに遅れてやって来た女性・みちるをめぐって、互いの記憶は微妙にずれながら6年前へとさかのぼってゆく。あの日、この体育館の床に、毛布にくるまれ並べられた遺体。みちるは、実は震災で亡くなった同級生だった。彼女だけが「二十一世紀の今日、ここで会おう」という6年前の約束を覚えていた。作者の「震災体験」をベースに、こぼれてゆく記憶とどう向き合うかを問いかける。(村上知彦)