第6回(1999年)佳作:中田あかね
YS
作品解説
小さな製材所の事務所兼休憩室が舞台。経営者が亡くなり、長男が社長を継いで4年目。弟達や若い男性従業員だけの職場は、むさくるしいが心地いい。若い女性事務員が入社し、男達は色めき立つが、彼女もわけありの様子。そして彼らが注文した本を届けに来る古本屋の女性達。彼女らは皆誰かに似ている。亡き父の若い婚約者や、男達の別れた妻達に。一見仲の良い男達も、実は過去に女性を巡り、悪意ある行為をし、傷つけ合っていた。見えない製材所から木を切る音が聞こえるたび、過去が蘇る構成が巧み。題名のYSは、人物全員の共通のイニシャル。人を傷つけた痛みは消えないが、再度過去を見詰め、未来を祈る男達の姿を描いたラストは、温かい。(九鬼葉子)