第4回(1997年)佳作:花田明子
鈴虫のこえ、宵のホタル
作品解説
母の葬儀で、久しぶりに実家へ集まった三人姉妹が、とりとめのない会話を続けるうちに、父の入院と手術、ボケが始まって部屋に引きこもったままの祖母のこと、父や祖母が親戚にだまされたこと、そうして交通事故死の母の思い出、などなどがやりとりの中に次第に浮かび上がってくる。ここにいない人を活写するというのは三島由紀夫の『サド公爵夫人』であまりに鮮やかに使われた手法ではあるが、葬式というざわめかしい場所を、登場人物三人きりで描く作者の卓抜なアイデアは、生き生きとした台詞術と巧みなキャラクターの書き分けによって、たいそう成功しているといってよい。家族旅行の回想シーンと思わせて、結局出かけられなかった話に持って行くなどもじつに巧い。(岡野宏文)