第3回(1996年)佳作:蟷螂襲
嵐のとなりの寝椅子
作品解説
大きな街から電車で30分ほどの駅前商店街のそのまたはずれに、十坪そこそこの三餘堂書店はある。外は暴風雨。売れ残った本、いわゆる「ショタレ本」が山積みになった地下倉庫で今しも店員・胡の誕生パーティーが開かれようとしていた。話のきっかけから、売れる本などまわしてもらえない小書店の現実を店長が語れば、本の中身をこそ愛する定員たちの熱が押しとどめようとして、二者の対立があらわになる。いわば、情愛と経済の相克がこの作のメインテーマなのである。そこへほろ酔いかげんの社長が胡へのプレゼントを持って現れる。二脚の寝椅子である。座れば雨風の吹き荒れが静かな波の満ち引きに聞こえるこの寝椅子は、理想としての書店のたとえであり、外には世知辛い暴風の吹きあふれる世界が口を開けているのだ。しみじみとした情感を誘う一作。(岡野宏文)