第10回(2003年)佳作:中村賢司
てのひらのさかな
作品解説
生活発表会「もみじ祭」が終わった休園日の幼稚園。先生たちが前日の片づけをしながら、なにやら話しあっている。「拍手は少ないんですよ」「ビデオ構えて、デジカメ構えて、拍手の代わりにカメラのフラッシュ」。まだ新人の園長と、送迎バス運転手も会話に加わる。そこへ、卒論テーマを検証したいと幼児教育を学ぶ大学院生がやって来る。繰り返しかかってくる、園のことを根掘り葉掘り尋ねる謎の電話。正門の前で死んでいる犬。不審なぼや騒ぎ。自由な環境に置くか、目標をもたせるのか。象徴的な事件や幼児教育をめぐるリアルな会話のなかに、登場人物それぞれの抱える切実さと、てのひらを使って遊び、拍手することの意味が浮かび上がる。 (村上知彦)